赴任前 入門 2026.07.11

僕のときは「投信は強制売却・個別株は塩漬け」だった

読了 約10分 ✓ 内容確認 2026.07.11 全7章
筆者:Jin|アメリカ駐在4年目・米国工場長

日本の製造業から渡米し、赤字工場を黒字化。実資産を 2,000万→6,400万円 にした過程を、失敗も実数字も公開しています。FPでも税理士でもない「自分で全部やった人」の記録です。著者の経歴 →

数年前、僕が渡米のために出国手続きをしたとき、主要なネット証券の扱いはどこもだいたい同じだった。

  • 投資信託 → 出国前に売却(解約)が必要
  • 国内の個別株・国債 → 保有は継続できるが、売却のみ(新規の買付は不可=塩漬け)

つまり、コツコツ積み立ててきた投信は、持っていく権利すら無かった。これは僕の記憶違いではなく、当時のネット証券では標準的な運用だったとあとから確認できた。

2024〜2025年で、ルールが変わった

ところがこの1〜2年で、各社が非居住者の保有可能商品を一気に拡大した。

NISAについても、会社命令の海外転勤などに限り「継続適用届出書」を出せば最長5年は非課税で持ち続けられる(ただし新規買付は不可)(野村證券 FAQ)。

主要ネット証券の「非居住者になったときの扱い」早見表

証券会社投資信託の保有個別株の保有新規買付(積立・買い増し)
楽天証券○ 手続きで継続可(売却のみ)○ 手続きで継続可(売却のみ)✕ 停止
SBI証券○ 2025年5月末〜 課税口座も継続可○ 継続可(売却のみ)✕ 停止
三菱UFJ eスマート証券(旧auカブコム)△ 特定口座・累投型は出国前売却が必要△ 条件あり(公式確認推奨)✕ 停止

※同じ「保有継続可」でも、対象口座(特定/一般/NISA)や手続きの締切(出国日前日まで等)は会社ごとに違う。NISAは会社命令の転勤に限り「継続適用届出書」で最長5年は非課税継続できるが買い増しは不可。個別株も会社によって特定口座の扱いや手続き条件が異なる。表は執筆時点の各社公式情報に基づく整理なので、最新条件は必ず各社公式FAQで確認してほしい。

なので、今これから出国する人は、僕のときのように「投信は問答無用で売却」ではない。手続きをすれば、投信も個別株も持ったまま渡航できる。これは素直に前進だ。

でも「塩漬け」であることは変わっていない

ここが一番大事なところ。変わったのは「投信・個別株を売らずに持てるようになった」一点だけで、買付(=積み立て・買い増し)ができないのは昔のまま

  • 出国中は新規買付不可。毎月の積立設定はすべて止まる
  • 特定口座は一般口座へ振り替わる(帰国時に戻せる場合あり)
  • 手続きをせずに出国すると、各社の判断で強制売却されることがある
  • 会社によって対応が違う。たとえば三菱UFJ eスマート証券(旧auカブコム)は厳しめで、特定口座や累投型の投信は出国前売却が必要とされる(三菱UFJ eスマート証券 出国・帰国手続き)
  • 出国時に有価証券などを1億円以上持っていると「出国税(国外転出時課税)」の対象になる

要するに「持っていける」けど「育てられない」。数年の駐在の間、積立は完全に止まったまま、というのが現実だ。

「個別株」は持っていける。でも、それが「塩漬け」の意味

「海外赴任 株 塩漬け」で検索してこのページに来た人は、ここを先に読んでほしい。

日本の上場株式(個別株)は、投信と扱いが少し違う。一言でいえば「売る自由はある、育てる自由はない」——これが塩漬けの実態だ。

  • 保有は続けられる:出国手続きをすれば、持っている個別株はそのまま持っていける
  • 売ることはできる:値上がりしたら売却して利益確定はできる
  • でも、買い増しはできない:新規買付が止まるのは投信と同じ。配当の再投資も、ナンピンも、できない
  • 特定口座は一般口座へ:出国にともない特定口座から一般口座へ振り替わる(帰国時に戻せる場合あり)。取得価額は自分で管理しておく
  • 配当は受け取れる:ただし非居住者の配当課税の扱いは口座・居住国で変わるので、各社と税理士に確認しておく
  • 株主優待は要注意:多くの会社が非居住者への優待送付を停止している。優待目的で保有している銘柄がある場合、出国前に「非居住者でも優待が届くか」を各社・各銘柄で確認すること

つまり個別株の「保有継続」は、塩漬け——売る自由はあるけど、育てる自由はない、という状態のことだ。数年の駐在のあいだ、ポジションは固定されたまま動かせない。

「塩漬けにする vs 出国前に売る」の判断フレーム

持つか売るかは、こう整理すると決めやすい。

塩漬けで残す方向出国前に売る方向
長期保有前提の優良株で値上がりを数年待てる積み立て・回転目的だった銘柄
時差・為替の中で動かさなくていい覚悟がある地球の裏から含み損益を管理し続けるのがストレス
特定口座→一般口座移行後の確定申告を自分で管理できる出国前に特定口座で精算してから渡航したい
優待が非居住者にも届く、または優待目的でない保有優待銘柄で非居住者への送付が停止される
含み損があり、今の価格では切りたくない正当な理由がある含み損なら出国前に損出しして将来の節税枠に使う

僕自身は、出国のタイミングで持ち物をかなり整理して、できるだけ身軽にして渡米した。理由は単純で、地球の裏側から、買い増しもできない塩漬けポジションを管理し続けるのがしんどいからだ。為替も時差もある中で、塩漬けの日本株を抱えて含み損益に一喜一憂するより、渡米後に使える口座(米国籍ETFやIBKR)で組み直すほうが、自分には合っていた。

もちろん「どうしても持っておきたい優良株がある」なら、塩漬け前提で残すのも一つの判断だ。大事なのは、“持っていける=積み立てを続けられる”ではないと知ったうえで決めること。

出国前チェックリスト(投信・個別株・NISA)

  • 各証券会社の「非居住者向け出国手続き」の内容と締切を確認(出国日前日まで等)
  • 手続きに必要な書類を準備(転出届受理証明等・会社により異なる)
  • NISAを保有している場合:「継続適用届出書」の提出期限を確認(会社命令の転勤のみ適用・最長5年)
  • 特定口座の取得価額を記録しておく(一般口座移行後は自己管理が必要)
  • 株主優待銘柄は「非居住者でも優待が届くか」を各社・各銘柄で確認
  • 含み損の銘柄は損出しのタイミングとして使えるか検討(帰国後より有利なケースがある)
  • 積立設定が出国後に自動停止されるか、要手続きかを各社に確認
  • 有価証券等の合計が1億円超なら「出国税(国外転出時課税)」の申告が必要→税理士へ
  • 米国赴任の場合:保有投信のPFICリスクを確認し、出国前売却を検討

アメリカ行きは、もう一段重い(PFIC)

さらにアメリカ駐在の場合は、日本側の証券会社のルールとは別の問題が乗ってくる。米国の税制では、日本の投資信託は「PFIC」という扱いになり、持ち続けるだけで懲罰的に課税されうる。最悪、含み益の半分以上が税金で消える。

内示から渡米まで4ヶ月の準備期間で、一番焦ったのがこれだった。NISAでメインに積み立てていた投資信託を、渡米前に全部売らないといけない——と知った瞬間は「積み上げてきたものをリセットするのか」という気分だった。でも今思えば結果良かった。強制的に利確した資金が、渡米後の米国口座での運用原資になった。出国前に確定できた分だけ、あとの選択肢が広がった、という感覚だ。

だから米国に行く人は、「日本の証券会社が保有を認めてくれる」かどうかに関係なく、税の理由で結局売った方が有利になることが多い。この話は別記事に詳しく書いた → 知らずに10年持っていた投信が、帰国後に税率50%超で課税される話(PFIC)

なお個別株はPFICの問題が基本的には発生しない(PFICは受動的外国法人への課税枠組みで、個別株は直接株式として扱われる)。米国赴任でも個別株を残すことは税的な許容度が高いが、米国から日本株を売却した際の申告は複雑になるので、赴任前にCPAへ確認しておくと安心だ。

じゃあ、これから積み立てる人はどうするか

僕が今、これから駐在の可能性がある人に伝えたいのはこれだ。海外の可能性が少しでもあるなら、投信の積み立てを「出国時にどうなるか」まで考えて始める

  • 投信に全振りしない:出国で積立が止まる前提で、ポートフォリオを組む
  • NISAは制度を理解して使う:会社命令の転勤なら最長5年は継続できるが、買い増しはできない
  • 渡米後を見据えるなら米国籍ETF・個別株という選択肢:VTI・VOO・IVVのような米国籍ETFはPFICに当たらない。非居住者でも使えるIBKRという口座もある
  • 証券会社ごとの差を出国前に確認:同じ「投信保有継続」でも会社で条件が違う。手続きの締切(出国日前日まで等)も要注意。各社の対応比較と出国前チェックリストは実務版の記事にまとめた

「海外なんてまだ分からない」という段階でも、知っておくだけで商品や口座の選び方が変わる。これは始める前にしか打てない手だ。

帰国後の話を少し足すと——日本側の口座に資産が積み上がってくるとき、また投信を積み立てるかどうか、という問いが出てくる。今の僕の正直な感覚は「また海外駐在の可能性があるなら、投信の積み立てはやりたくない」だ。PFIC問題を一度経験すると、次の赴任前に同じ焦りを繰り返したくないという意識が残る。証券会社が2つも3つも増えていくのも管理が煩雑になる。帰国後にどう動くかは、また別の記事で書くつもりだ。

まとめ

「海外赴任で投信は強制売却」は、僕の時代は本当だった。でも2024〜2025年でルールが変わり、今は手続きをすれば持ったままにできる。ただし積み立ては止まるし、アメリカ行きならPFICで持ち続けるのも不利。だから結論は変わらない——海外の可能性があるなら、投信の積み立ては「出国時の扱い」込みで考えておいた方がいい。

個別株も同じで、「持っていける=塩漬け」の意味を理解した上で、残すか整理するかを決める。売る自由はある、育てる自由はない、特定口座は一般口座へ——この3点が個別株の現実だ。

僕は当時、選択肢すら無くて全部売った。今は選べる時代になった分、選び方を最初から知っておくのが、これから渡航する人の強みになる。


※各社の対応は変更されることがあり、公式FAQに更新日が明記されていない場合もあります。最新の条件は必ず各証券会社の公式ページで、税務は日米両対応の税理士・CPAで確認してください。これは一駐在員の体験と、執筆時点の公開情報に基づく整理です。

よくある質問

Q. 海外赴任したら、日本の投資信託は必ず売らないといけない?

昔は主要ネット証券で「投信は売却必須」が標準でしたが、2024〜2025年に各社が対応を拡大し、今は出国手続きをすれば保有継続できる場合が多いです(売却のみ・新規買付不可)。ただし会社により条件が違うので、出国前に各社の公式FAQで確認してください。

Q. 持ったままにできるなら、積み立ても続けられる?

いいえ。保有はできても新規買付(積み立て)はできません。出国中は積立設定が止まります。「持っていけるが育てられない」状態です。

Q. 個別株(日本株)は海外赴任中も持っていける?

保有は継続できますが、新規買付ができないため”塩漬け”になります(売却は可能)。出国にともない特定口座は一般口座へ振り替わります。株主優待は非居住者に届かないケースが多いため、優待銘柄は出国前に確認してください。配当課税の扱いは口座・居住国で変わるので、各社と税理士に確認してください。

Q. 個別株を塩漬けにするか、出国前に売るか、どう判断すればいい?

長期保有前提の優良株で「値上がりを数年待てる・動かさなくていい」なら塩漬けも選択肢です。一方で「管理が煩雑」「特定口座が一般口座に変わることへの対応が面倒」「渡航先の口座に集中したい」なら出国前整理を検討する価値があります。含み損の銘柄は出国前の損出しとして活用できる場合があります。記事内の判断フレームも参考にしてください。

Q. アメリカ駐在でも個別株は持ち続けていい?

日本の個別株はPFICの対象外なので、米国赴任でも税的な許容度は投信より高いです。ただし米国から日本株を売却する際の申告は複雑になります。日本の投資信託は「PFIC」として懲罰的に課税されうるため出国前売却を検討してください。詳しくはPFICの記事を参照し、日米両対応の税理士・CPAに確認してください。

Q. 出国後に手続きを忘れたらどうなる?

証券会社が非居住者であることを確認した場合、手続きなしの口座は強制売却や口座停止のリスクがあります。出国が決まったらすぐ手続きを開始し、各社指定の締切(出国日前日まで等)に間に合わせることが重要です。

免責

この記事は一人の駐在員の実体験の記録であり、投資・税務・法律の助言ではありません。 投資は自己責任で、税務は必ず専門家にご相談ください。制度・手数料は執筆時点の情報です。 詳しくは免責事項へ。

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このブログの4年分の記録を、出国前→着任→駐在中→帰国の時間軸で1冊に再構成しました。 失敗の実額と実ポートフォリオまで、全部載せています。