赴任前 入門 2026.06.16

「海外赴任したらNISAは全部売却」は古い常識──手続きすれば最長5年そのまま持てる。僕が1本だけ売った理由

読了 約7分 ✓ 内容確認 2026.06.16 全8章
筆者:Jin|アメリカ駐在4年目・米国工場長

日本の製造業から渡米し、赤字工場を黒字化。実資産を 2,000万→6,400万円 にした過程を、失敗も実数字も公開しています。FPでも税理士でもない「自分で全部やった人」の記録です。著者の経歴 →

この記事の結論(先に答えます) NISAに「出国したら全部売れ」という法律上の売却義務はありません。海外赴任なら、出国前日までに「非課税口座継続適用届出書」を出せば、最長5年はNISA口座のまま保有を続けられます(新規の買付・積立は不可)。手続きをせずに出国しても、強制売却ではなく一般口座へ自動移管されるだけ。含み益を確定させずに持ち続けられます。例外は投資信託を持っている人。これは「NISAだから」ではなくPFICという米国側の税の問題で、売却を検討する価値があります。僕が赴任前に売ったのも、この1本でした。

赴任前の準備で、いちばん焦ったことの1つがこれでした。「駐在になるとNISAは全部売らないといけないらしい」。内示後にネットで調べると、そんな話があちこちに出てくる。せっかく積み立てた含み益を、出国のためだけに全部利確しないといけないのか、と。

結論から言うと、これは半分は誤解です。順番に整理します。

「NISAは出国時に売却必須」はなぜ広まったのか

まず事実から。証券会社も公式に「売却は義務ではない」と明言しています。楽天証券の海外出国手続きページでは、手続きをしないまま出国した場合の扱いは「保有商品をすべて一般口座へ変更」とされていて、強制売却とはどこにも書かれていません(楽天証券 海外出国のお手続き)。

では、なぜ「売らないといけない」が広まったのか。理由は2つあると思っています。

ひとつは「非課税口座が廃止される=売らされる」という勘違い。実際は廃止されても一般口座に移るだけで、ポジションは消えません。もうひとつは、長らく対応する金融機関が少なかったこと。制度はあるのに窓口が動かず、「結局売るしかなかった」という体験談が積み上がった。東証マネ部(日本取引所グループ)も、法令上は保有できるのに対応している金融機関はほんの一部、と問題視する報道をしていました(東証マネ部)。誤解が生まれたのには、ちゃんと背景があるわけです。

出国してもNISAを持ち続けられる「5年継続保有制度」

2019年度の税制改正で、海外赴任者向けに継続適用制度が整備されました。ざっくり言うと、こういう制度です。

項目内容
対象者勤務先の転任命令など、やむを得ない事由で出国する人とその配偶者(留学・ボランティアは対象外)
出す書類「非課税口座継続適用届出書」
期限出国の前日までに金融機関が受理していること
保有できる期間提出日から5年を経過する日の属する年の12月31日まで
制限継続保有中は新規の買付・積立がすべて不可
帰国後5年以内に「帰国届出書」を出せばNISA口座が復活。出さなければ廃止→一般口座へ

ポイントは、新NISA(2024年〜)は非課税保有期間が無期限になったこと。旧NISAは「出国してる間に非課税期間が切れる」懸念が大きかったのですが、新NISAではそこが解消されました。帰国まで持ち続けるハードルは、昔よりずっと下がっています。

手続きをしないとどうなる?──「強制売却」ではなく「一般口座移管」

ここが一番の誤解ポイントなので、はっきり書きます。

届出を出さずに出国した場合、起きるのは強制売却ではなく一般口座への移管です。含み益を持ったまま、保有は続けられる。ただし注意点が2つ。

ひとつは、移管した時点の時価が、一般口座での新しい取得価額として引き継がれること。それ以降に出た利益は課税対象になり、非課税メリットは失います。もうひとつ、これはNISAだけの話ではなく、特定口座も同じく廃止→一般口座移管になります。

「売らされる」のではなく「非課税の看板が外れる」だけ。損失を確定させる必要はありません。

結局どうすべき?──判断軸

「制度はわかった。で、自分はどうすればいいの?」という人向けに、判断軸を表にします。

あなたの状況おすすめの動き
個別株を持っていて、帰国後も持ち続けたい継続適用届出書を出してNISAのまま5年保有を狙う(手続きの手間と常任代理人コストは要確認)
とにかく手間をかけたくない/保有額が小さい何もせず出国→一般口座へ自動移管でOK。慌てて売らない
NISAで投資信託(投信)を持っている「NISAだから」ではなくPFICの問題で売却を真剣に検討(次章)
金融資産が1億円以上ある出国税(国外転出時課税制度)の対象になりうる。別途確認が必要

判断の起点は「何を持っているか」です。個別株か、投信か。ここで対応が分かれます。

僕が赴任前にNISAの1本だけ売った理由──PFIC

ここで僕の実体験を。赴任準備で焦ったのは、まさに「NISAでメインに積み立てていた投資信託を売らないといけない」と気づいたときでした。

ただし、これは「NISAの売却義務」だからではありません。理由はPFIC。アメリカの税法では、米国外の投資信託(日本の投信はこれに当たる)を持っていると、米国の居住者になった後に懲罰的に重い課税を受ける仕組みになっています。だから「NISAだから売る」のではなく、「米国でタックスペイヤーになる前に、投信を整理しておく」という判断でした。

正直、当時は「せっかく積み立てたのに」と思いました。でも今振り返ると、結果的には良かった。あの強制的な利確がきっかけで、渡米後は米国株での運用に切り替わったからです。PFICの詳しい中身は別記事(駐在前に知っておくPFICの話)に書いたので、投信を持っている人はそちらも読んでみてください。

逆に言えば、個別株しか持っていない人にPFICは関係ありません。個別株なら、慌てて売らずに継続適用制度でそのまま持つ選択肢が、ちゃんとあります。

僕の考えを正直に書くと、「制度として持てるか」と「自分が持ち続けたいか」は別の問いだ、ということです。継続適用制度を使えば5年は持てる。でも新規買付も積立もできない口座を、常任代理人のコストを払いながら遠い海外から塩漬けで眺める5年に、自分はどれだけ価値を感じるのか。僕の場合、答えは「ノー」でした。投信はPFICで結局手放す前提だったし、個別株も「凍結されたまま持つ」より、いったん整理して渡米後の環境(米国株・米国口座)で組み直すほうが、自分の納得感が高かった。制度が許す保有期間と、自分が本当に持っていたい資産は、分けて考えたほうがいい。手続きできるからやる、ではなく、帰国後に自分がどう運用したいかから逆算する。これが4年前の自分に一番伝えたい判断軸です。

手続きの落とし穴:書類は「出国前日まで」、常任代理人も要る

制度があっても、実務でつまずくと結局売る羽目になります。最低限おさえておきたい注意点。

  • 楽天証券は「出国の2週間前まで」に書類を請求、と案内しています。受理されるまでに時間がかかるので、ギリギリは危険。
  • 出国前日までに受理が完了していること。当日・事後は受け付けられず、不備があれば一般口座移管。救済はありません。
  • 多くの場合、常任代理人の設定が必要(日本に残って手続きを代行してくれる人)。SBI証券は2親等以内の親族か、弁護士・税理士などの専門家に限定しています。
  • 専門家に頼むと費用がかかります。年間で10万円弱(要確認: 楽天証券公式での一次確認を推奨)という情報もあり、「継続保有のコスト」として頭に入れておきたいところ。

対応する金融機関は2025年から増えています。SBI証券は、NISA口座での国内株・外国株・投信の継続保有に2025年1月1日から対応しています。なお、よく混同されますが、2025年5月31日の拡充は課税口座(特定口座など)での外国株・投資信託・国内債券・ST(セキュリティ・トークン)追加が対象で、NISA口座の継続保有の話ではありません(SBI証券 ニュースリリース(2025/6/2))。自分の使っている証券会社が、どの口座のどの商品まで対応しているかは、必ず事前に確認してください。

まとめ:慌てて全部売る前に、まず「何を持っているか」を見る

赴任前って、とにかく時間がなくて、「売っちゃえば楽」という誘惑が強いんです。僕もそうでした。でも、知らずに利確して非課税枠を捨てるのは、もったいない。

自分の口座に何が入っているかを冷静に見る。それだけで判断の質が変わります。帰国後の資産設計とも地続きの話なので、出国前の税まわりの全体像は帰国前に確認したい税金の話も合わせてどうぞ。

いま一番言いたいのは、これです。「売らされる」と思い込んでいた4年前の自分に、まずこの記事を読ませたい。

よくある質問

Q. 海外赴任でNISAは必ず売却しないといけませんか?

いいえ。法律上の売却義務はありません。海外赴任なら「非課税口座継続適用届出書」を出せば、最長5年はNISA口座のまま保有を続けられます。手続きをしなくても強制売却ではなく、一般口座へ自動移管されるだけです。

Q. 手続きをせずに出国したらどうなりますか?

NISA口座・特定口座の保有商品が、すべて一般口座へ移管されます。含み益は確定されず保有は続けられますが、移管時の時価が新しい取得価額になり、それ以降の利益は課税対象になります(非課税メリットは失います)。

Q. NISAで投資信託を持っている場合はどうすべきですか?

これは「NISAだから」ではなく、米国側のPFIC課税の問題で、売却を検討する価値があります。米国の居住者は国外の投資信託に懲罰的な課税を受ける仕組みのため、米国でタックスペイヤーになる前に整理する人が多いです。個別株であればPFICは関係なく、継続保有を選びやすくなります。

免責

この記事は一人の駐在員の実体験の記録であり、投資・税務・法律の助言ではありません。 投資は自己責任で、税務は必ず専門家にご相談ください。制度・手数料は執筆時点の情報です。 詳しくは免責事項へ。