赴任前 入門 2026.06.11

知らずに10年持っていた投信が、帰国後に「税率50%超」で課税される話

読了 約5分 ✓ 内容確認 2026.06.12 全7章
筆者:Jin|アメリカ駐在4年目・米国工場長

日本の製造業から渡米し、赤字工場を黒字化。実資産を 2,000万→6,400万円 にした過程を、失敗も実数字も公開しています。FPでも税理士でもない「自分で全部やった人」の記録です。著者の経歴 →

「投信、そのまま持っていけばいいや」——渡米が決まった当初、僕は本気でそう思っていた。NISAでコツコツ積み立てた投資信託を、当然そのままアメリカに持っていくつもりだった。

それを全部売る羽目になったのは、出国のわずか3週間前。渡米準備であれこれ調べていて、たまたまPFICという言葉にぶつかったからだ。意味を理解した瞬間、血の気が引いた。その週のうちに証券口座を開いて、全部売った。

PFICを知らないまま渡米すると、最悪のケースで含み益の半分以上を税金で持っていかれる。しかも気づくのは、たいてい帰国してからだ。今日はその話をする。僕は税の専門家じゃないので、「自分はこう理解して、こう動いた」という実体験ベースで書く。

PFICって何なのか

PFIC(Passive Foreign Investment Company=受動的外国投資会社)。アメリカの税法(IRC §1291〜1298)が定めるカテゴリで、ざっくり言えば「アメリカ国外の、配当や利子で稼ぐ会社」のことだ。

問題は、日本の公募投資信託はほぼ全部これに該当すること。eMAXIS Slim 全世界株式も、ひふみプラスも、セゾン投信も、東証ETF(1306や1655)も、外貨建てMMFも、米国税務の目から見れば全部「PFIC」だ。

そして駐在員が一番ショックを受けるのが、NISA口座の中の投信もアメリカでは普通に課税対象だということ。日本でいくら「非課税です」と言われても、米国のIRS(内国歳入庁)には関係ない。日本の非課税制度は、アメリカの税務まで守ってはくれない。

なぜそんなに不利なのか

PFICの課税方式は3つあるんだけど、何も手を打たないと一番不利な「Excess Distribution(超過分配)」方式が自動で適用される。これがえげつない。

  • 売却益は全額が課税対象として扱われる
  • それを保有期間の各年に割り振り、各年の**最高税率(現行37%)**で課税
  • さらに「これまで税金を払ってこなかったよね」という名目で、利息(interest charge)が上乗せされる

つまり、長く持っているほど利息が膨らむ。理屈の上では、税負担が含み益そのものを超えることすらある。

ざっくり試算してみる。日本の投信を100万円分、年率5%で10年保有したとする。10年後はおよそ163万円、売却益はだいたい63万円。これをExcess Distribution方式で課税し、利息を足すと、**実効税率が50〜60%**に達するケースがある。せっかく増えた63万円のうち、手元に残るのが30万円ちょっと、という世界だ。

(※あくまで前提を置いた概算で、実際の税率は保有年数・各年の税率・利率で大きく変わる)

申告しないと「時効が来ない」

もう一つ怖いのが申告義務だ。PFICを持っていると、毎年 Form 8621 という情報申告書を出さないといけない(制度の詳細はIRSのForm 8621公式ページ)。FATCA強化以降、ここはどんどん厳しくなっている。

そして僕が一番ゾッとしたのがこれ──Form 8621を出していないと、税務の時効(通常は3年)が進まないとされる。「知らなかった」で放置すると、過去のすべての年が課税対象として残り続けるおそれがある。出国3週間前に、それでも徹夜みたいな勢いで全部売り切ったのは、この時効の話を知ってしまったからだ。

駐在員特有の落とし穴

もう一つ、タイミングの問題もある。以前は楽天証券・SBI証券などで、非居住者になると投信は保有を続けられず売却が必要だった。2024〜2025年に各社が対応を広げ、今は出国手続きをすれば保有自体は続けられるようになった(ただし新規買付は不可)。とはいえ米国居住者の場合は、保有を続けてもこのPFIC課税が重くのしかかるので、結局は出国前に売り切る方が有利なことが多い。手続きをせず出国すると各社の判断で強制的に売却されることもある(投信の扱いがどう変わったかは「投信は強制売却」はもう古い話に整理した)。

帰任時も油断できない。グリーンカードや市民権を持ったまま帰国すると、米国への申告義務は続く。さらにグリーンカードを返すときには Exit Tax(出国税)の対象になり、PFIC保有分は「みなし売却」で課税されることがある。

じゃあ、どうするのが正解か

僕が実際にやったことは、シンプルだ。

  1. 渡米する前に、日本の投信・ETFは全部売る。 米国の居住者になる前に、日本側で完結させてしまうのが一番きれい。
  2. 渡米後は、日本の投信を新規で買わない。 買うなら VTI・VOO・IVVのような米国籍ETF(米国の法人なのでPFICに当たらない)か、個別株に絞る。証券口座は非居住者でも使えるIBKRという選択肢がある。
  3. どうしても上場PFICを持つなら、初年度に Mark-to-Market(MTM)の届出を出す。 毎年含み益を申告する手間はあるけど、将来の爆弾を防げる。
  4. 不安なら、日米両対応のCPAに相談する。 費用は年$500〜$3,000くらいが目安。高く感じるけど、追徴課税の桁を考えれば保険として安い。探すなら、海外在住者の米国申告を専門にするファーム(例:Taxes for Expats。PFIC・Form 8621の申告も扱っている)から当たると早い。※紹介リンク:経由だと初回申告が$25オフになり、当サイトにも紹介料が入ります。

まとめ

PFICは、「知っていれば渡米前の数時間で防げるのに、知らないと帰国後に数十万〜数百万の差になる」典型的な落とし穴だ。日本の証券会社も、会社の駐在サポートも、ここまでは教えてくれないことが多い。

あのとき、たまたま調べていなかったら——と考えると今でもゾッとする。気づいたのが3週間前で、間に合ったのは正直、運が良かっただけだ。だからこれは武勇伝じゃない。次に渡米する誰かが、僕みたいにギリギリで青ざめるんじゃなく、最初から知っておけるように書いた。

駐在の話が出たら、引っ越しや学校探しより先に、まず証券口座の画面を開いてほしい。渡米前の「売却」ボタン一つで防げるリスクだから。


※税制は変わるし、個別事情で結論も変わる。最終判断は必ず日米両対応の税理士・CPAに確認してほしい。これはあくまで、一駐在員の体験談です。

よくある質問

Q. PFICって何?

米国税法上、外国籍の投資信託などが該当するカテゴリです。対策しないと最悪レベルの課税になりうるもので、日本の公募投信はほぼ該当します。

Q. NISAなら非課税だから大丈夫?

日本の非課税制度は米国税務には及びません。米国居住者になると、NISA内の投信も米国では課税対象になりうります。

Q. どうすればいい?

僕は出国前に日本の投信を全部売りました。判断は個々の状況で異なるので、日米両対応の税理士・CPAに必ず相談してください。

免責

この記事は一人の駐在員の実体験の記録であり、投資・税務・法律の助言ではありません。 投資は自己責任で、税務は必ず専門家にご相談ください。制度・手数料は執筆時点の情報です。 詳しくは免責事項へ。

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『駐在のお金、全部やってみた』

このブログの4年分の記録を、出国前→着任→駐在中→帰国の時間軸で1冊に再構成しました。 失敗の実額と実ポートフォリオまで、全部載せています。