滞在中 入門 2026.06.11

130円で迷い、150円で覚悟した

——駐在員のドル転タイミングの話
読了 約5分 ✓ 内容確認 2026.07.11 全4章
筆者:Jin|アメリカ駐在4年目・米国工場長

日本の製造業から渡米し、赤字工場を黒字化。実資産を 2,000万→6,400万円 にした過程を、失敗も実数字も公開しています。FPでも税理士でもない「自分で全部やった人」の記録です。著者の経歴 →

130円で「高い」と思った2022年3月

渡米したのは2022年。最初に日本から300万円を送金したとき、ドル円はすでに130円まで円安が進んでいた。

「これ以上は高い。もう少し待てば戻るだろう」——そう判断して、送金額を控えめにした。生活セットアップ費用を除くと、投資に回せたのは約100万円だった。

あのころ、駐在員コミュニティでも「様子見」が多数派だった。2020〜2021年の100〜110円台を知っているだけに、130円は「歴史的な高値」に見えた。待つのが合理的だと思っていたし、投資関連のSNSを眺めると「もうすぐ円高に戻る」という声もあった。それが、待機バイアスをさらに強めた。

結果はご存知の通りだ。同じ年の10月、ドル円は150円を付けた。あの数字をスマートフォンで初めて確認したとき、正直、頭が真っ白になった。「待った分だけ損をした」という事実が、じわじわと染みてきた。

150円で覚悟を決めた話

普通なら「130円で高いと思ったのに、150円で買えるわけがない」となる。実際、周りの駐在員はほぼ全員が様子見だった。

僕が考え方を変えたのは、「為替の高い安い」ではなく「日本円のまま寝かせておく機会損失」を数字にしてみたからだ。

ちょうどこの時期、日本に残していた資金をもう一段ドルに換えるか迷っていた。対象は500万円。試算はシンプルだった。130円で換えると約38,500ドル、150円なら約33,300ドル。確かに5,000ドルほど——円換算で75万円近い差が出る。「待てばよかった」と後悔するのは当然だ。ただ、問題は「では今後いつ130円に戻るのか」が、誰にもわからないことだった。

具体的に、同じ500万円を各レートでドル転すると、手に入るドルはこれだけ変わる。

ドル円レート500万円で取得できるドル130円との差
130円(円高方向)約38,462ドル
140円約35,714ドル約 −2,748ドル
150円(円安方向)約33,333ドル約 −5,128ドル

150円は130円より約5,128ドル——円に戻せば75万円前後——少ない。数字で見ると「待つ方が得」に映る。問題は、その130円がいつ戻るのか誰にも約束されていないこと、そして待っている間、この500万円はドル建てでは1ドルも働いていないことだった。

ここで発想を変えた。「130円に戻るまで待つ」のではなく、「今後1〜2年で米国株がどれだけ動くか」を軸に考えてみたのだ。150円でドル転した後に株価が10〜15%上昇するなら、為替差損はあっという間に埋まる。逆に、待ち続けて為替が少し戻ったとしても、その間に株価が上がっていれば、ドル建ての資産はまったく増えていない。「為替の改善」と「株価の上昇」は、都合よく同時に起きるとは限らない。

もう一つ、駐在員としての本質的な問いに気づいた。このお金は「いずれドルで使う前提のお金」だ。生活費も、現地での投資資金も、全部ドルで動いている。円のまま保有することは「安全策」ではなく、「換えないことにも為替リスクが伴う」——そのリスクの非対称性に、ようやく気づいた瞬間だった。

そこで腹が決まった。2022年10月に150円をつけたのを見て決断し、少し円高に戻した145円前後の局面で500万円をドル転、VOOとQQQに分散して購入した。ちょうどその時期、S&P 500は年初来で約25%下落しており、底付近にあった。「為替は悔しい。でも株価は今買いやすい」——そういう逆張り的な感覚が、背中を押してくれた。

念のため書いておくと、これは僕の場合こうだった、という話にすぎない。同じ局面で別の選択をした駐在仲間もいたし、結果論として僕の判断がたまたま悪くなかっただけかもしれない。為替や投資のタイミングに正解があると言いたいわけではない。

結果として、この判断は悪くなかった。為替はその後、円高方向に振れる局面もあったが、株価の上昇がそれを十分に補ってくれた。145円で換えた後悔より、130円で換えなかった後悔の方が、今は圧倒的に大きい。

今、為替タイミングについて思うこと

タイミングを読もうとすること自体をやめた——これが、4年間の駐在を経ての結論だ。

「もう少し円高になったら換えよう」と考え始めると、答えは永遠に出ない。130円でも待ち、150円でも待ち、気づけば円安のまま任期が終わっていた、という人を何人も見てきた。「完璧なタイミング」を探している間にも、投資に使えたはずの時間は着々と削れていく。

今の僕のスタンスはシンプルだ。換えると決めたお金は、決めた時点でさっさと換える。換えたら、インデックスファンドにそのまま入れる。為替の動きで悩む時間を、「何に投資するか」を考えることに使いたい。

そもそも駐在員は、円安の恩恵を給与という形で一部受け取っている面もある。円ベースの給与に為替調整が乗るケース、生活費の一部が会社負担になるケースも多く、「円安が純粋に損」とは言い切れない構造がある。会社や契約によって事情はまったく違うので一般化はできないけれど、ドル転のタイミングに過剰に悩む前に、自分の報酬体系とコストを一度整理してみると、意外と気持ちが楽になると思う(昇給したのにドルの手取りが減る話も、為替が給与に効く一例だ)。

為替は誰にも読めない。それは130円で痛感し、150円で再確認した。ただ、「換えてインデックスに積み続ける」という行動は、タイミングに関係なくできる。完璧な入り口を探すより、早く乗って長く乗り続ける方が、駐在という限られた期間では重要だと思っている。タイミングは読めなくても、どのルートでドル転するかは選べる。

130円で迷い、150円を見てようやく腹が決まった。その経験が、今の僕にこう言わせる——タイミングより、動くかどうかの方がずっと大事だった、と。

よくある質問

Q. ドル転のタイミングは読むべき?

僕の結論は「読まない」。完璧なタイミングを待つ間に、投資できたはずの時間が減っていく。換えると決めた額は決めた時点で換える方が、限られた駐在期間では合理的だと考えています。

Q. 一度に全部替える?分ける?

大きな金額で不安なら時期を分散するのも一案です。僕は迷いを減らすため、使うと決めた分は早めに替えてインデックスに入れる方針。正解は人それぞれで、金額と性格で決めていいと思います。

Q. 円高を待った方が得では?

為替は誰にも読めない、というのが130円でも150円でも痛感したことです。読めない前提で「早く乗って長く持つ」方を僕は選びました。投資判断はご自身の責任で。

免責

この記事は一人の駐在員の実体験の記録であり、投資・税務・法律の助言ではありません。 投資は自己責任で、税務は必ず専門家にご相談ください。制度・手数料は執筆時点の情報です。 詳しくは免責事項へ。

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『駐在のお金、全部やってみた』

このブログの4年分の記録を、出国前→着任→駐在中→帰国の時間軸で1冊に再構成しました。 失敗の実額と実ポートフォリオまで、全部載せています。