海外赴任で企業型DC・iDeCoはどうなる?出国前に確認すべき3つのこと
結論を先に。 企業型DC(確定拠出年金)は「日本の厚生年金に入り続けるか」で運命が分かれ、拠出を続けるか止めるかは会社の規約次第。iDeCoは国内住所が加入条件なので、海外転出届を出すと原則続けられず、出国前に運用指図者へ切り替える手続き(K-015)が要ります。放置すると掛金の引き落とし失敗、資産が元本確保型で数年塩漬けといった”宙ぶらりん”が起きます。正直に言うと僕はここを会社任せにして出国したので、これから行く人には最低限の3点だけ先に確認してほしくてこの記事を書きました。
駐在の準備は、ビザ・引っ越し・子どもの学校で頭がいっぱいになります。年金なんて後回しになりがちです。でも企業型DCやiDeCoは「自分で手続きしないと止まる/宙ぶらりんになる」タイプのお金で、会社は資産の細部までは面倒を見てくれません。
僕自身、赴任前にNISAで積み立てていた投資信託をPFICの問題で強制的に売る羽目になり、子どものジュニアNISAも渡米で解約になりました。「非居住者になると、日本の制度は自動では続いてくれない」——これを身をもって知っているからこそ、確定拠出年金も同じ落とし穴があると言えます。
そもそも企業型DCとiDeCoは何が違う?(30秒で定義)
先に用語を短く定義します。ここがあいまいだと後の話が全部ぼやけます。
- 企業型DC(企業型確定拠出年金):会社が制度として用意し、原則会社が掛金を出す年金。加入は勤め先の制度に紐づく。
- iDeCo(個人型確定拠出年金):自分で申し込み、自分で掛金を払う私的年金。金融機関(運営管理機関)経由で国民年金基金連合会が運営。
- 運用指図者:新しい掛金は出せないが、すでに積み立てた資産の運用(スイッチング)は続けられる状態。「拠出は止まるが凍結ではない」と理解すると分かりやすい。
つまり企業型DCは「会社の制度」、iDeCoは「自分の契約」。海外赴任で効いてくる論点も別々なので、分けて見ていきます。
企業型DCは「厚生年金の被保険者かどうか」で決まる
企業型DCを赴任中も続けられるかどうかの分岐点は、海外赴任中も日本の厚生年金に入り続けるかです。日本法人との雇用関係が続き、厚生年金の被保険者のままなら、企業型DCも継続できる可能性が高い。逆に厚生年金の資格を失うと継続できません。
ここで効いてくるのが社会保障協定です。アメリカ・イギリス・ドイツ・カナダなど協定のある国へ原則5年以内の一時派遣なら、日本の社会保険を継続適用(=二重加入を回避)でき、厚生年金も続くのが原則です(日本年金機構「海外への転出/海外からの転入」)。
| あなたの状況 | 厚生年金 | 企業型DCの見込み | まず確認する先 |
|---|---|---|---|
| 協定国へ5年以内の赴任(日本法人と雇用継続) | 継続の可能性が高い | 継続できる可能性が高い(拠出可否は規約次第) | 会社HR+DC窓口 |
| 5年超になりそう/協定なしの国 | 資格喪失の可能性 | 継続不可のルートになりやすい | 会社HR+現地HR |
| 現地採用に切り替え | 喪失 | 継続不可 | 会社HR |
「継続できる条件を満たしていても、実際に掛金を出し続けるか、いったん止めるかは会社のプラン規約で決まる」——ここが会社ごとにバラバラで、赴任者に自動で案内されるとは限りません。拠出が止まっても、積み立て済みの資産は運用指図者として運用を続けられます(解約・引き出しはできない)。制度の骨格は厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」が一次情報です。
正直に言うと、僕は出国時、年金まわりを会社任せにしました。出向ベースで日本の社会保険は続いていたので大枠は問題なかったのですが、企業型DCの掛金が赴任中どう扱われるか、自分の口座がどうなるかを窓口で確認しきらないまま出国したのは反省点です。だから読者には「会社任せで大丈夫だった」ではなく、「必ず自分の口座で確認して」と伝えたい。ここは会社規模や出向/現地採用で扱いが大きく変わるので、あなたのケースは要確認です。
iDeCoは海外居住者は原則加入できない(出国前にK-015)
iDeCoの加入要件は「日本国内に住所を有する者」です。だから住民票の海外転出届を出した時点で、原則として加入資格を失います。厚生年金を続けていても、この「国内住所」要件が壁になります(iDeCo公式サイト)。
例外として、2022年5月の改正後は国民年金に任意加入している海外居住者(20歳以上65歳未満の日本国籍保有者)ならiDeCoを続けられる道もできました。ただし任意加入には別途の手続きと保険料納付が必要です。駐在員として厚生年金の第2号被保険者を続けている場合の扱いは、運営管理機関(金融機関)によって回答にばらつきがあるので、自分の契約先に個別確認するのが確実です。
出国前にやる手続きは、ざっくりこの流れです。
- 運営管理機関(金融機関)へ連絡し、**加入者資格喪失届(K-015)**を入手・提出する
- 締め切りに注意:毎月20日までに書類到着→翌月から適用(月次締め)。出国直前だと間に合わないことがある
- 提出後は運用指図者に切り替わる(拠出は止まるが、既存資産のスイッチングは可能)
- 郵便物の届く国内の住所を確保しておく(実家など親族宅への変更が実務的に無難。海外だと書類が届かない)
K-015の具体的な記入項目は運営管理機関の記入要領(例:東京海上日動のK-015記入要領PDF)で確認できます。配偶者が第3号被保険者でiDeCoをやっている場合は、本人(駐在員)が厚生年金を続けていれば継続できるケースもあるので、これも金融機関に確認を。
放置すると、何を・どれだけ損するか
手続きを”あとで”にすると、こういう損が起きます。
| 放置パターン | 起きること | 損の中身 |
|---|---|---|
| iDeCoの停止手続き忘れ | 掛金の引き落としが続く/残高不足で失敗 | 「未払い」扱いや無駄な引き落としが積み上がる |
| 企業型DCのスイッチング放置 | 元本確保型など保守的な初期設定のまま固定 | 数年間、運用機会をまるごと逃す=機会損失 |
| 国内住所を残さず出国 | 手続き書類が海外に届かず完了できない | 資産が”宙ぶらりん”で身動き取れない |
| 帰国後に自動再開すると思い込む | 再開されない | 再加入手続きをするまで拠出ゼロの空白期間 |
金額を一律に「◯円損」とは言えませんが、数年ぶんの運用が元本確保型で寝ていたら、その間の期待リターンはまるごと逃した計算になります。僕がNISAやジュニアNISAで痛感したのと同じで、「非居住者になっても制度が勝手に続いてくれる」わけではない。止めるも続けるも、自分で動いた人だけが選べます。海外赴任中の日本側の資産全般については投資信託が海外赴任でどうなるかにもまとめています。
出国前に確認すべき3つのこと
網羅すると混乱するので、最低限これだけは、という3点に絞ります。
- 会社(HR/総務)に「赴任中の企業型DCの拠出はどう扱われるか」を規約ベースで聞く。「厚生年金は続くか」「拠出は継続か停止か」「停止なら手続きは誰がやるのか」の3点を、口頭だけでなく文書で確認する。
- iDeCoをやっているなら、出国前にK-015で運用指図者へ切り替える。 20日締めの月次スケジュールを逆算し、郵便物が届く国内住所(親族宅など)を先に用意しておく。
- 拠出が止まる場合でも、運用配分(スイッチング)を出国前に整えておく。 初期設定の元本確保型のまま数年放置=塩漬け、を避けるため。
判断軸をシンプルに言うと——協定国へ5年以内で日本法人と雇用が続く見込みなら、会社HR+DC窓口の2つに確認すれば足りることが多いです。5年超になりそう・協定のない国・現地採用に切り替わる可能性があるなら、厚生年金の資格喪失=DC継続不可のルートを前提に、現地HRも巻き込んで早めに専門家(社労士・税理士)へ。iDeCoは金融機関ごとに回答が割れるので、迷ったら自分の運営管理機関に直接聞くのが最短です。
2026年前後の制度改正メモ(帰国時に再確認)
いま確定拠出年金は改正ラッシュの最中で、「出国時の制度」と「帰国時の制度」が変わっている可能性があります。
- 企業型DCの拠出限度額が月額55,000円→62,000円へ引き上げ、マッチング拠出の上限規制撤廃(2026年施行予定・要確認)
- iDeCoの加入年齢上限が65歳未満→70歳未満へ拡大予定(2026年施行予定・要確認)
金額や施行時期は動くので断定はしません。帰国して拠出を再開するとき(自動再開はされません)は、その時点の最新制度を厚労省や運営管理機関で確認してください。
まとめ
年金の手続きは、地味で、後回しにしやすくて、しかも間違えても誰も怒ってくれません。だからこそ静かに損が積み上がる。僕は企業型DCを会社任せにして、確認しきらないまま飛行機に乗ってしまった側の人間です。大事故にはならなかったけれど、「あのとき窓口に一本電話しておけば」という小さな後悔は残っています。出国前の忙しさのなかで、この3点だけは、どうか自分の口座で確かめてから飛んでください。
よくある質問
Q. 企業型DCは海外赴任中も掛金を出し続けられますか?
日本の厚生年金の被保険者であり続けるか(=日本法人との雇用が続くか)が分岐点です。社会保障協定のある国へ5年以内の赴任なら継続の可能性が高いですが、実際に拠出を続けるか止めるかは会社のプラン規約次第です。まず会社のHRとDC窓口に確認してください。
Q. iDeCoは海外に住んでいても続けられますか?
原則は「日本国内に住所があること」が加入条件なので、海外転出届を出すと資格喪失の対象です。ただし国民年金に任意加入している海外居住者なら続けられる例外があり、駐在員(厚生年金継続中)の扱いは金融機関で回答が分かれます。自分の運営管理機関に個別確認するのが確実です。
Q. 手続きをせず出国したらどうなりますか?
iDeCoは掛金の引き落としが失敗して「未払い」扱いが続いたり、企業型DCは初期設定の元本確保型のまま資産が塩漬けになったりします。国内に郵便物の届く住所がないと手続き書類も届かず、資産が宙ぶらりんになります。帰国後も自動では再開しないため、再加入手続きが別途必要です。
この記事は僕(Jin)の実体験と公的機関の情報をもとにした個人的な記録で、投資・税務の助言ではありません。制度・金額・手続きは改正や個別事情で変わります。最終的な判断の前に、勤め先のHR・DC窓口・運営管理機関、必要に応じて社労士や税理士など専門家に確認してください。
この記事は一人の駐在員の実体験の記録であり、投資・税務・法律の助言ではありません。 投資は自己責任で、税務は必ず専門家にご相談ください。制度・手数料は執筆時点の情報です。 詳しくは免責事項へ。
BOOK
『駐在のお金、全部やってみた』
このブログの4年分の記録を、出国前→着任→駐在中→帰国の時間軸で1冊に再構成しました。 失敗の実額と実ポートフォリオまで、全部載せています。