赴任前 公開 対象: 入門

英語学習に20万円かけて、結局いちばん効いたのはタダでした

赴任前3ヶ月で月5万円のマンツーマン英会話に計20万円。会社が用意してくれた大学のESLクラス。どちらもほぼ効かず、いちばん効いたのは職場で同僚と必死にしゃべることだった——お金をかけた順番と効果の順番が完全に逆だった話。

アメリカ駐在が決まったとき、最初に頭をよぎったのは「英語、大丈夫か俺」だった。製造業の一般会社員で、TOEICは会社の推奨ラインをギリギリ。海外旅行で道を聞くくらいはできても、会議で技術的な話を英語で回せる自信なんて1ミリもなかった。社内のやりとりならまだしも、現地のメンバーと納期や不良の原因を詰める場面を想像すると、それだけで胃が重くなった。

ありがたいことに、会社は赴任前に3ヶ月の準備期間をくれた。その3ヶ月で、僕はめちゃくちゃ気合を入れてお金をかけた。マンツーマン英会話に月5万円ちょっと。入会金や教材費も込みで、3ヶ月の総額はざっと20万円。今になって振り返ると、その「気合の入れ方」が完全に間違っていた。今日はその話を、これから駐在や海外移住を考えてる人に向けて、恥を忍んで書いておこうと思う。

月5万のマンツーマン英会話、正直ほぼ意味なかった

赴任前の準備期間、僕はマンツーマンの英会話スクールに通った。月5万円くらい。完璧に準備してから本番に臨みたかったし、グループレッスンより集中して鍛えてもらえると思った。せっかく時間をもらえたんだから、ここで一気に仕上げてやろう、くらいの気持ちだった。

結論から言うと、ほとんど意味がなかった。

理由は通ってる最中はわからなかったけど、今ならはっきり言える。週に1〜2回、合計2時間ちょっと。これじゃ量が圧倒的に足りない。 あとで知ったんだけど、言語習得って「理解できるインプットを大量に浴びる」のが前提らしい。週に数時間程度だと、そもそも土俵に上がれていなかったわけだ。レッスンの日は調子よくしゃべれた気になるのに、次の週には半分忘れている。その繰り返しだった。

それに、スクールの先生はめちゃくちゃ優しい。こっちが詰まっても笑顔で待ってくれるし、間違えても「ナイストライ!」みたいに拾ってくれる。気持ちはいいんだけど、これが逆に良くなかった。間違えても何も困らない、安全すぎる練習場だったんだと思う。通じなくても誰も困らないし、こっちのプライドも傷つかない。だから本気にならない。3ヶ月通って20万円。残ったのは「英語に対するなんとなくの慣れ」と、ちょっとした安心感くらいだった。そしてその安心感は、現地に着いた初日に粉々になる。

会社が用意してくれた大学のESLクラスも、時間の無駄だった

赴任後、ありがたいことに会社の仕組みで最初の数ヶ月、大学に通わせてもらえた。留学生向けのESL(語学補習)クラスを週に何日か取る、という研修だ。仕事に慣れながら英語も鍛えられる、いい制度に見えた。

これも、正直に言うと時間の無駄だった。会社には申し訳ないけど。

まず、クラスメイトが日本人・中国人・韓国人みたいな非ネイティブばかり。お互い拙い英語だから、そもそも英語を使う必然性が薄い。気を抜くと、休み時間には母国語が近い者同士で固まってしまう。授業も文法や発音の基礎が中心で、明日からの仕事で使えるかというと全然そうじゃない。「ビジネスで生き残る英語」と「アカデミックな語学の補修」は、方向がまるで違うんだよね。テストでいい点を取る練習と、現場で図面を前に話を通す練習は、まったくの別物だった。

唯一よかったのは、英語の音にひたすら触れて耳が少し慣れたこと。でもそれは机に向かわなくても、職場にいれば嫌でも起きることだった。わざわざ授業の時間を割いてまで得るものだったかというと、答えは正直「ノー」だ。

結局いちばん効いたのは、職場で同僚と必死にしゃべることだった

じゃあ何が効いたのか。答えは拍子抜けするほどシンプルで、仕事の中で同僚と実際に英語を使うことだった。追加コストはゼロ。むしろ給料をもらいながら鍛えてもらっていたわけだから、コストはマイナスとも言える。

職場の英語って、逃げ場がない。伝わらなければライン(製造現場)が止まる、納期に響く、上司に説明できない。「伝わらないと本当に困る」というリアルな必然性がある。スクールにはこれが決定的に欠けていた。トラブルが起きているときに「単語が出てこないので待ってください」なんて言っていられない。なんとしても伝えるしかない状況が、毎日のように向こうからやってくる。

しかも、職場で使う英語って意外と範囲が狭い。業界用語、社内の言い回し、会議で使うフレーズ。毎日同じような単語と表現を、1日8時間以上浴び続ける。スクールの週2時間とは絶対量が桁違いだ。最初の1ヶ月は会議のたびにぐったり疲れていたのに、半年もすると、会議で言いたいことが詰まらず出てくるようになった。気づけば、準備期間に20万円かけて得られなかったものが、現場でタダで身についていた。

同僚のフィードバックもありがたかった。発音が違えば「え、何?」と普通に聞き返されるし、変な言い方をすれば自然に言い直してくれる。スクールの優しい訂正と違って、通じなかった事実が体に刻まれるから、次は絶対に直る。恥はかくけど、その恥がいちばんの先生だった。同じ言い間違いで二度恥をかきたくないから、嫌でも覚える。これ以上に強い動機づけはなかった。

これから駐在する人に伝えたいこと

笑えるのは、お金をかけた順番と、効果があった順番が完全に逆だったこと。20万円のマンツーマン、会社負担のESL、タダの職場実践。効いたのは下から順だった。財布を痛めたものほど効かず、1円も払っていないものがいちばん効いた。

誤解してほしくないのは、「赴任前の勉強が全部ムダ」って話じゃない。最低限の基礎がないと、職場でのスタートラインにすら立てない。単語も文法もゼロのまま現場に放り込まれたら、さすがに溺れていたと思う。ただ、その基礎は月5万円のマンツーマンじゃなくてよかった。月数千円のオンライン英会話や、通勤中のシャドーイングで十分だったと今は思う。浮いた十数万円は、家族との外食にでも回せばよかった。

そして何より、「完璧になってから実践しよう」という発想を捨てること。これがいちばん大事だと思う。日本人は準備しすぎる。僕もそうだった。でも語学は、失敗しながら本番で伸ばすものだった。安全な練習場で何年磨いても、本番のヒリヒリした1日にはかなわない。準備にかけた3ヶ月より、現場で過ごした最初の1ヶ月のほうが、確実に自分を変えた。

だからこれから駐在する人に言いたい。基礎だけ最低限やったら、あとはお金をかけずに飛び込んでいい。最初の数ヶ月は確実にしんどいけど、それは順調にうまくいっている証拠だ。どうせいちばん上達するのは、向こうで恥をかきながら過ごす毎日だから。

免責 — この記事は一人の駐在員の実体験の記録であり、投資・税務・法律の助言ではありません。 投資は自己責任で、税務は必ず専門家にご相談ください。制度・手数料は執筆時点の情報です。 詳しくは免責事項へ。